集学的痛みセンター
角谷整形外科病院 慢性疼痛外来は、「集学的痛みセンター」になりました。
慢性疼痛とは・・・?
- 長引く痛み(一般には3か月以上)のことを慢性疼痛と言います。
- 痛みの原因が、診察や検査で分かることもありますが、分からない場合もあります。
- 痛みは本来、ケガをした、骨折した、あるいはその他の病気で体が警告を発した時に発生するものです。しかし、痛みが長く続くと、痛みを伝え、感じる回路が変化することで、痛みがより強く感じられたり、体が警告を発するような状況にないのに痛みが生じたりするようになることがあります。このような痛みになると、鎮痛薬や注射が効きにくくなり、原因もわからないため、原因検索と痛みの緩和を求めて、多数の医療施設を転々とすることにもつながってしまいます。
- このような長引く治りにくい痛みに対しては、集学的治療が有効であることが知られています。
集学的治療とは?
- 医師、理学療法士、公認心理師などの様々な職種のスタッフによるチーム医療のことを集学的治療と呼びます。これにより、慢性疼痛に悩まされている患者様の日常生活の質の向上を目指します。
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[理学療法]へ
当院集学的痛みセンターを受診される方、受診をお考えの方へ
診療時間:毎週木曜 午前
- 当センターは完全予約制です。予約キャンセルは、できるだけ予約日の1週間前までにしていただき、直前の予約キャンセルはご遠慮ください。
- 初診には2~3時間程度かかります。ご了承ください。
- 慢性疼痛治療においては運動が重要です。運動療法をご希望でない患者様も、初診時と、以降定期的に運動機能評価を受けていただきます。
- 3か月程度の通院での終結を目指しています。その後は必要に応じて延長することもあります。
当センターは厚生労働省「慢性の痛み研究班」の研究に参加しています。当センターを受診された方の医学的資料は、医学学術活動に使用させていただく場合があります。
医師・心理師による診察・評価
当センターではまず、医師・心理師が痛みについて、また痛みによる家庭生活や社会生活への影響について詳しくうかがいます。また質問紙票を用いて多面的に評価します。
それをもとに、痛みがあっても自分らしく生きることを目指し、様々な取り組みをするお手伝いをします。
長引く痛みに悩まされていると、
- 痛みのせいで何もできない。
- このままでは痛みで動けなくなるかもしれない。
- 痛みで気持ちが落ち込む、不安だ、いらいらする。
- 痛みのことが頭から離れない。
- 痛いことを言える人、理解してくれる人がいなくて つらい。
などの考えが浮かんできませんか。今まで出来ていた趣味や活動に取り組むのが難しくなり、日常生活にも支障が出ていませんか。
このようなことが重なると、痛みがさらに強く感じられ、悪循環に陥ります。
そのような考え方の偏りや癖に気付き、修正していくことで、痛みにとらわれない時間を増やしたり、痛みでできなくなった活動にチャレンジしたりできるようになることを目指します。
「痛みがなくなるまでは何もできない」と決めつけたり、寝てばかりで動かなかったりすると、出来ないことが増える一方です。反対に、痛みが軽い時に頑張って動きすぎ、後でひどい痛みにおそわれ動けなくなる、という場合もあります。いずれも、目標活動量の設定やペース配分を話し合いながら工夫することで、解決を目指します。
このような目的を達成するために、ご自身の生活の活動記録を記入していただき、振り返りを行いながら進めて行きます。
理学療法
「痛みがあると、動く気になれない」、「痛みがあるときは動かないほうがいい」と思ってしまうことが多いと思います。
しかし、このような運動を制限する状態が長く続くと、様々な問題が生じてきます。
- 体力の低下
- 自律神経の乱れ
- 動くことに対する不安の増加
- 痛みを回避する代償動作による異常な緊張
これらのことが繰り返され、さらに活動の範囲が狭くなっていくという悪循環に陥ります。特に体力の低下は、痛みの感受性を高め、痛み以外にも様々な問題を引き起こしてしまいます。
近年、慢性疼痛の治療として運動療法を行い、ご自宅でも行えるよう習慣化することが痛みに対して有効であるとの報告が増えてきています。
運動療法といっても、いわゆる筋力強化やきついことをするわけではありません。
まずは呼吸を整え、ストレッチングの後、有酸素運動で汗をかいてもらいます。慣れてきたら筋力トレーニングを行っていきます。
運動の効果としては、身体を動かすことにより、脳内の不安や恐怖を感じる領域の活動が抑制され、痛みの感じやすさが変化していきます。そして、運動を継続することによって痛みが緩和していきます(図1)。
また、筋肉からも神経機能の調整や組織の修復、脂肪の代謝促進など様々な分泌物が出ることで体の状態をよくすることがわかっていることから「運動は霊薬」と言われています(図2)。
当センターでは、2名の理学療法士が医師や公認心理師と連携しながら、患者さんの状態に応じて、運動を処方させていただき、一緒に痛みについて考えさせていただきます。また、必要に応じて物理療法などを用いて痛みの感じ方を調整しながら運動を行います。
我々と一緒に痛みがあっても動ける体を取り戻しましょう。
図1 脳報酬系の二つのシステムとexercise-induced hypoalgesia(EIH)
運動を行い、計画的に継続することでネガティブな感情を生み出し記憶するシステムが抑制されて、疼痛が緩和される。
(仙波恵美子 自律神経 58 巻1 号 2021 年より)
図2 運動により分泌される物質
運動を行い、継続することで代謝や免疫、炎症抑制に作用する物質が筋肉や脂肪細胞から分泌され、健康を取り戻すことができます。
(European Journal of Applied Physiology (2020) 120:2569–2582https://doi.org/10.1007/s00421-020-04484-5より引用)
当院で実施されるリハビリテーションについての説明
*認知行動療法+運動療法、教育を中心に実施します。
ガイドライン推奨度、エビデンス総体の総括:
- 集学的リハビリテーションは慢性疼痛治療として有効か?:1A(施行することを強く推奨する)
- 認知行動療法(CBT):1B(施行することを強く推奨する)
- 患者教育:1B(施行することを強く推奨する)
- 一般的な運動療法
慢性腰痛:1A
変形性膝関節症:1A
慢性頸部痛:1B - マッサージ等徒手療法:2C(施行することを弱く推奨する~施行しないこと弱く推奨する)
目的と最終目標
目的
- 身体的・情動的機能を改善させること
- 痛みの支配からの脱却
最終目標
- 生活の質(QOL)を向上させること
- 痛みがあっても、ある程度の活動ができ、自らの役割を果たせること
*痛みに関しては最終的に“0”になるかどうかは組織の障害の程度や個人の考えによって様々であり、困難な場合もあります。当院では痛みの除去を最大の目的とはせず、痛みとうまく付き合う方法を一緒に模索していく方法を選んでいます。
理学療法士にできること
理学療法士は基本動作(起き上がる、立つ、歩く)の改善を目的とした動作分析や治療を行う専門家です。
痛みのある患者さんは、ご自身では当たり前に行っている姿勢や動作において、意識できない回避動作やそれによる緊張が強く生じる部位があります。このようなご自身でコントロールできない運動のことをUncontrol movement;UCMと呼んでいます。このような自分では意識できない動きを、いくつかのスクリーニングで見つけ出し、改善に向けたエクササイズの指導やストレッチングなどを行い、体が快適な動きを獲得できるように支援します。手術を行い、骨や関節を固定されたり、すでに拘縮などで動きが永続的に制限されている場合でも、その他の身体部位の機能を改善し、強化することで動作を改善することが可能となります。集学的痛みセンターでの理学療法ならびにそれを含めたリハビリテーションでは、直接痛みに対する治療を行うわけではなく、痛みを助長している要因をできる限り少なくし、痛み刺激を軽減すること、体力の向上によるレジリエンスの向上をはかり生活の質を向上させることが目的となります。
ですが、あくまで患者さんご自身が、これらのことを理解していただき、継続的に実施していただくことが条件となりますので、ご理解をいただいたうえで、協力させていただきたいと思っています。